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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)7594号 判決

大阪市鶴見区放出東三丁目八番二八号

第一事件原告・第二事件被告

データウエスト株式会社

右代表者代表取締役

秋田直和

埼玉県朝霞市三原五丁目九番一九号

第二事件被告

株式会社大空

右代表者代表取締役

大空正二

埼玉県大宮市大谷四三四-三

第二事件被告

大空正二

埼玉県川越市寺尾八七八-一五

第二事件被告

芝野恵自

右四名訴訟代理人弁護士

松本勉

大阪府守口市京阪本通二丁目五番五号

第一事件被告

三洋電機株式会社

右代表者代表取締役

高野泰明

岐阜県安八郡安八町大森一八〇番地

第二事件原告

三洋マービック・メディア株式会社

右代表者代表取締役

奥俊治

右両名右訴訟代理人弁護士

河合徹子

濵岡峰也

右第一事件被告訴訟代理人弁護士

藤木久

主文

一  第一事件原告・第二事件被告データウエスト株式会社、第二事件被告株式会社大空、同大空正二及び同芝野惠自は、連帯して、第二事件原告三洋マービック・メディア株式会社に対し、金四六五七万二二九八円及びこれに対する平成六年五月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  第一事件原告・第二事件被告データウエスト株式会社の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一事件原告・第二事件被告データウエスト株式会社と第一事件被告三洋電機株式会社との間においては、第一事件原告・第二事件被告データウエスト株式会社の負担とし、第二事件原告三洋マービック・メディア株式会社と第一事件原告・第二事件被告データウエスト株式会社、第二事件被告株式会社大空、同大空正二及び同芝野惠自との間においては、第一事件原告・第二事件被告データウエスト株式会社、第二事件被告株式会社大空、同大空正二及び同芝野惠自の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  第一事件

1  第一事件被告三洋電機株式会社(以下「三洋電機」という)は、別紙CD-ROMドライブの表示〔タイプA〕(以下「タイプAドライブ」という)及び同〔タイプB〕(以下「タイプBドライブ」という)記載のCD-ROMドライブを製造、譲渡、譲渡のための展示・貸渡しをしてはならない。

2  三洋電機は、前項のCD-ROMドライブの既製品、半製品一切を廃棄せよ。

3  三洋電機は、第一事件原告・第二事件被告データウエスト株式会社(以下「データウエスト」という)に対し、金九六八二万三二〇〇円及びこれに対する平成六年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  三洋電機は、別紙新聞及び雑誌目録記載の新聞及び雑誌に、別紙記載の謝罪広告を別紙掲載条件にて掲載せよ。

二  第二事件

主文第一項に同じ。

第二  事案の概要

本件は、

一  三洋電機が、タイプAドライブを訴外エレコム株式会社(以下「エレコム」という)に、また、タイプBドライブを訴外メディアビジョン株式会社(以下「メディアビジョン」という)にそれぞれ販売したことにつき、データウエストが

1  タイプAドライブ及びタイプBドライブ(以下、合わせて「本件CD-ROMドライブ」という)のファームウェアのプログラム(以下「本件プログラム」という)の著作権はデータウエストに帰属するところ、右三洋電機の行為はデータウエストに無断でなされたのであるから、著作権を侵害する、

2  本件CD-ROMドライブについての一切の知的所有権がデータウエストに帰属していることを三洋電機は認識しながら、データウエストに無断で、右のとおりタイプAドライブをエレコムに、タイプBドライブをメディアビジョンに売却したことは民法七〇九条の不法行為を構成する、

3  エレコムあるいはメディアビジョンに売却する際、データウエストに納入したCD-ROMドライブと形態が全く同一のものを売却したので、不正競争防止法二条一項三号にいう「不正競争」に当たる、

4  三洋電機は、開発商品を他に販売・譲渡・使用等一切しない旨データウエストとの間で約していたのであるから、右三洋電機の行為は、この義務に違反しており、債務不履行に当たる、

と主張して、本件CD-ROMドライブの製造販売の差止めとその廃棄及び損害賠償を求め(第一事件)、

二  第二事件原告三洋マービック・メディア株式会社(以下「三洋マービック・メディア」という)が、第二事件被告株式会社大空(以下「大空」という)に対し、タイプAドライブを販売し納品したにもかかわらず、大空が残代金四六五七万二二九八円を支払わないと主張して、大空に対して売買契約に基づき、データウエスト、第二事件被告大空正二(以下「大空正二」という)及び同芝野惠自(以下「芝野惠自」という)に対して連帯保証契約に基づき同額の支払を請求(第二事件)

したものである。

三  争点

1  第一事件における著作権の対象とされる本件プログラムの著作物性

2  本件プログラムの著作権はデータウエストに帰属しているか。

(一) 原始的にデータウエストに帰属していると認められるか。

(二) 基本契約書(甲一。以下「本件基本契約書」という)は、データウエストと三洋電機との間の契約であり、これにより本件プログラムの著作権がデータウエストに帰属したことになるか。

3  三洋電機は、データウエストに対して不法行為責任を負うか。

4  三洋電機は、データウエストに対して不正競争防止法に基づく責任を負うか。

5  三洋電機は、データウエストに対して債務不履行責任を負うか。

6  三洋電機がデータウエストに対し、損害賠償義務を負う場合に支払うべき金銭の額等。

7  大空、大空正二、芝野惠自及びデータウエストは、三洋マービック・メディアに対して金銭支払義務を負うか。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(第一事件における著作権の対象とされる本件プログラムの著作物性)について

【データウエストの主張】

1 オブジェクトプログラム自体が著作権法上保護されるプログラムであることは、解釈上確立している。それ故、本件プログラムの特定としては、オブジェクトプログラム・ダンプリストによる特定で足りる。著作権法二条一項一〇号の二で「プログラム」とは「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合せたものとして表現したものをいう。」とされているところ、オブジェクトプログラムも、右計算機を機能させ一の結果を得ることができるように指令を組み合せたものの集合体であることは明白である。

別添のオブジェクトプログラム・ダンプリストは、デバイスドライバ(ドライバーソフトともいう)DWR-22MS(PC)〔NECPC9800シリーズ用〕、DWR-22MS(MC)〔APPLE MACINTOSH用〕、DWR-22MS(IB)〔IBM PC/AT互換機用〕をそれぞれ使用して、各パーソナルコンピュータ(ホストコンピュータ)に接続した場合に、各ホストコンピュータを機能させて、タイプAドライブの第1、2の基本仕様及び3の特性の所定内容にて機能を発揮するように指令を組み合せたものとして表現されているものであるから、著作権法二条一項一〇号の二及び一〇条一項九号所定のプログラムの著作物で、しかも同プログラム開発開始時点での同種商品の水準からしてこれらを超える相当高度な内容を実現するものであり、著作権法上の創作性を有している。

2 タイプAドライブとタイプBドライブとは、CDの取り出し方法が、タイプAドライブでは上蓋を開いて取り出すトップローディング方式であるのに対し、タイプBドライブでは前方から取り出すフロントローディング方式で、この取り出し方に関するプログラム処理上の相違があるにすぎないので、タイプBドライブにも、タイプAドライブと同一の本件プログラムが搭載されているということができる。

3 三洋電機は、別添の〔CD-ROMドライブの表示〕の2の基本仕様や3の特性に記載された仕様は、CD-ROMドライブに関するものであり、本件プログラムの仕様ではないと主張するが、本件プログラムはPCに対するプログラム(プログラム単体で動作するもの)ではなく、PCの周辺機器としての制御プログラムで、周辺機器であるCD-ROMにあるデータを読み出すことのみの目的しかない。そして、どのようなデータをどのように読むかはプログラムの内容に依存しているのであるから、CD-ROMドライブの仕様(又は機能)は明らかにプログラムの仕様そのものであり、これが同時にプログラムの創造性、創作性、進歩性の判断の基礎となるのである。

【三洋電機の主張】

1 音楽や絵画や文章のすべてが当然に著作物となるのではないのと同様に、プログラムであれば、当然に著作物となるわけではないから、データウエストは、本件プログラムの内容を正確に提示し、表記上の創作性を具体的に説明する必要があるところ、オブジェクトプログラムのダンプリストを提示するだけではプログラムの概括的な意味すら理解できないから、著作物性の主張にも立証にもなっていない。データウエストが、本件プログラムの著作物性を具体的に主張立証できないのは、本件プログラムを三洋電機が単独で開発したため、データウエストはプログラムの内容(コーディングの記載、プログラム設計、仕様等)を全く知らないからであり、データウエストが本件プログラムを開発したのではないことの証左である。

2 データウエストは、本件プログラムはタイプAドライブの第1、2の基本仕様及び3の特性に記載された機能を発揮するように指令を組み合せたものであるが、これらは同プログラム開発開始時点での同種商品の水準からしてこれらを超える相当高度な内容を実現するものであり、著作権法上の創作性を有している旨主張する。しかしながら、別添のタイプAドライブの2の基本仕様及び3の特性に記載された仕様(機能)は、CD-ROMドライブの仕様に関するものであって、本件プログラムの仕様ではないし、CD-ROMドライブと本件プログラムは別個のものであるし、前者の仕様によって後者の著作物性を論じること自体的外れである。データウエストは、CD-ROMドライブと本件プログラムとを混同しているが、この点をおくとしても、データウエストは、機能の高低によって創作性を判断すべきとするが、プログラムの創作性は、「(電子計算機に対する)指令を組み合せたものとして表現したもの」(著作権法二条一項一〇号の二)の中に含まれる「指令の組み合わせ」に関する創作性をいうのであって、機能自体によって創作性が判断されるわけではないから、記載されたプログラムを提示し、そこにおける「指令の組み合わせ」に関する創作性を主張する必要があるところ、本件においては、意味の理解できないダンプリストしか提示していない。さらに、タイプAドライブの2の基本仕様及び3の特性に記載された機能には雑多なものが含まれており、従来の同等製品に比べ機能面において優位が認められるものはほとんどないし、しかも、SCSI(スカジー)2などの新規格に対応している点は旧規格の製品に比べて機能上の優位性が認められるものの、これはCD-ROMに要求される世界的な規格に準拠しただけであり、タイプAドライブによって初めて実現された機能ではない。また、CDR-93と同時期で同価格帯であれば同じ機能を持った製品は日本中にも世界中にもあふれており、この意味でも目新しいものではない。したがって、タイプAドライブの機能には「進歩性」の意味でも「個性」の意味でも創作性などない。

二  争点2(本件プログラムの著作権はデータウエストに帰属しているか)について

【データウエストの主張】

1 次のような経過からすると、本件プログラムの著作権はデータウエストに帰属していることは当然であり、本件基本契約書(甲一)はその旨の合意をしたものである。

(一) データウエストは、平成四年六月頃、三洋電機からCD-ROMドライブ製作の可能性について打診を受けた。当時のパソコン市場において、CD-ROMドライブが飛躍的に伸びることが確実であったことから、元来家電メーカーである三洋電機は、パソコン市場で競争力のある商品の製作のためには、データウエストのCD-ROMに関する先端的な開発力・ノウハウに頼ることが不可欠であった。

(二) データウエストは、〈1〉二倍速(データ転送速度三〇〇KB/S)、〈2〉マルチセッション対応、〈3〉メモリー二五六KB、〈4〉アクセススピード二八〇msec、〈5〉SCCI-2の機能を有することで商品化が可能であるとの結論に達し、同時に、三洋電機に対し、右機能実現のためのあらゆる指導・情報提供・検査・報告等一連の作業を開始し、データウエストは、プログラムを実現するために、連日、電話、FAX、メール、手紙あるいは面談等で三洋電機に対し、膨大な情報を提供し続けた。

(三) プログラムの製作は、〈1〉プログラムの仕様の決定、〈2〉システム設計、〈3〉プログラムの設計、〈4〉プログラムコーディング、〈5〉テスト、〈6〉プログラムの補正の過程を経て完成に至る。本件プログラムの製作においては、右のうち〈1〉、〈2〉、〈5〉並びにデータウエスト提供にかかるデバイスドライバを使用しての〈3〉、〈4〉、〈6〉の作業が重要であるところ、データウエストは、右〈1〉、〈2〉、〈5〉並びにデバイスドライバを提供して三洋電機が行う〈4〉、〈6〉への協力をしており、創作の中心的・主位的な業務を行ったのに対し、三洋電機は、右〈2〉の一部と〈3〉、〈4〉、〈6〉を担当したのであって、内容的にみて創作の補助的業務をしたにすぎない。

(四) 三洋電機は、みずから本件プログラムを開発したと主張するが、三洋電機は、当時そのような能力も技術水準も有していないばかりか、ユーザーニーズを把握し、市場予測をする能力すら有していなかった。確かに、従前、三洋電機単独で、商品化を図った機種があるが、これはインターフェイスもせいぜいSCSI-1程度のレベルの低いものであった。データウエストの主導に基づきコーディングを中心とする一部作業を担当して初めて本件CD-ROMドライブが開発されたのである。そして、もともと単独では開発する能力もなかったことから、何らかのトラブルが生じると、三洋電機自身ではほとんど手の施しようもなく、データウエストに解決方法の指導を全面的に仰がなければならなかった。

(五) 三洋電機が、独力で開発したと主張するCDR-92(後のCDR-93)は、それまでオーディオ商品しか製作したことがなかった三洋電機が、CDプレイヤーと同じ仕様でCD-ROMドライブとして試作したものであるが、平成四年一二月二八日のモデル仕様は、ほとんど商品としての体をなしていなかった。すなわち、SCSI-2対応(1-2基本仕様・入出力端子欄、1-3特性・インターフェイス欄)を明記するほかは、マルチセッションもなく、二倍速も手書きで(1-3特性・データ転送速度欄)、メモリーも「なるべく大きく」(1-3特性・バッファーメモリ欄)という表現である。そのうえ、オーディオ商品にのみ記載されるライン出力(1-4オーディオ特性・オーディオ出力欄)の削除もなく、機械的動作性能(1-5信頼性・(3)欄)も、本来CD-ROMドライブとしてはテストCDとして各フォーマットのテストが当然必要であるが、CD-ROMのどのフオーマットに対応するのかすら仕様書にはない。オーディオ用のA-BEX DISKしか検査項目になく、オーディオCDプレイヤーの仕様としかみることができない。

(六) 三洋電機は、平成五年二月九日の時点でCDR-93の仕様が決定されたと主張するが、乙第三号証のとおり、プロジェクト開発ナンバー、アクセス時間、CD-ROM XA/PhotoCD(マルチセッション又はシングルセッション)、データバッファメモリ、ドライブソフトがいずれも未定であり、三洋電機の主張は事実に反する。右未定であったものは、四月・五月のデータウエストとの打ち合わせの中で順次、機能化されていったのである。この点につき、三洋電機は、データウエストのニーズに合わせて多少の修正を加えたものであるとするが、これらはとても「多少の修正」と捉えられるべき性質の項目ではない。本件CD-ROMドライブは、従前三洋電機が開発を試みていたCDプレイヤーの改造版とは全くレベルが異なるのである。

(七) 三洋電機は、東京・晴海のビジネスショーにCDR-93を展示していたことから、同時点においてその仕様が確立し、製品としても基本的に完成していたことが分かる旨主張するが、実際には、ショーの時点では構想段階という商品も多く、その場合、外装やパンフレットのみが決まっており、いわゆるモックといわれる外装部分のみが展示されていることもある。本件のCDR-93も、作動するどころか、PCに接続もされておらず、対応機種もなく、デバイスドライバやインターフェースカード等本来記入すべきカタログスペックも何もない、具体性のないものであったから、製品として完成していたとは到底いえない。

2 本件CD-ROMドライブを起動させた際の初期画面においては、PRODUCT-ID(著作権者)として、DATAWESTと表示される。このように表示されているのは、もともと本件CD-ROMドライブの開発がデータウエストによってなされたからである。三洋電機は、これを製品表示である旨主張するが、製品表示は「DWR-22MS」である。なお、〈C〉表示をしていないのは、当該商品につき著作権、意匠権その他一切の権利を含む概念によるためである。

また、DWR-22MSの梱包箱の上面左肩上部及び同容器の正面・側面・裏面各面にはそれぞれCopyright〈C〉1993 by DATAWEST incの表示、本件商品本体前面にDATAWEST CD-ROM DRIVE UNITの表示、本件商品販売時に添付する保証書にDATAWEST CD-ROM ドライブユニットの表示、取扱説明書の仕様部分にCopyright〈C〉1993 by DATAWEST incの表示がなさている。三洋電機は、これら〈C〉表示がデバイスドライバのみに限定されているように主張するが、これは本件ファームウエアプログラム以外の何物をも意味しないことは明らかである。三洋電機は、内部プログラムは通常問題とされない旨主張するが、三洋電機自身、ファームウエア内のプログラムは、器具の動きを制御することによって器具に付加価値のある機能が生まれることを認めている。本件で問題となっているCD-ROMドライブは、マルチメディアの先端商品であり、内部ファームウエアのプログラムはすべての性能をコントロールする最重要要素であり、商品価値のほとんどすべてを占めているから、起動させたときの初期画面における権利者表示、梱包箱及び取扱説明書に〈C〉表示をすることでデータウエストの著作物であることを強調しているのである。

さらに、本件CD-ROMドライブの三洋電機宛製造委託が、三洋電機が主張するようなOEM生産であったならば、三洋電機は著作権を自己に留保する旨の明文の文書を当然に添付するはずであるし、また、これなくして、データウエストが著作権者であることを示す〈C〉表示に応じるはずもない。

3 確かに、本件基本契約書(甲一)の当事者欄には、大空と三洋マービック・メディアが記載されているが、その実体は、データウエストと三洋電機との契約である。このことは、本件CD-ROMドライブの製作経過(前述1)のほか、本件基本契約書の調印に至る経緯及び契約条項からも明らかである。

(一) データウエストと三洋電機との商談は、平成四年六月頃から始まった。

平成四年八月三日、データウエストの情報、ノウハウ等についての三洋電機側の秘密保持措置について議論がなされ、同五日には、三洋電機光ディスク事業部(以下「光ディスク事業部」という)の手配で、ドライブ及びMPCボードの商談、打ち合わせが行われたが、結局、MPCボードについては一〇月に中断し、以後ドライブについての開発の話が継続することになった。

平成五年四月六日、ドライブの仕様確認がなされ(甲七)、以後右仕様を実現するファームウエアの製作が開始されたが、三洋電機側は初めて手がける商品であるため、作業が進展せず、データウエストに再三詫びるということもあった(甲六七)。

同年六月一日、光ディスク事業部は、従来の機能はそのままで、三洋マービック・メディアに組織変更した。

同年九月初め、データウエスト作成のデバイスドライバを三洋電機に渡すに当たり、契約書と同旨の念書の提出を三洋電機に求め、三洋電機は覚書(甲五四)を提出した。この覚書につき、当初、三洋電機の奥村部長は、法務部の了承を得てから送付するとしていたが、結局、管理部の安富部長の了解で作成し提出したもので、いずれにしても三洋電機は、法的に慎重に検討した上で、右覚書を提出したものである。

三洋マービック・メディアの担当者水野博(以下「水野」という)は、開発商品の工業所有権が三洋マービック・メディアに帰属する旨主張したが、データウエストは取り合わず、本件基本契約書(甲一)の用紙を水野に手渡した。水野は、法務部への説明が必要であるとして、データウエストの代表者を三洋電機東京本部に呼び、本件基本契約書の第一条から順次説明させるとともに、〈1〉インクアイアリーのPRODUCT・IDについて、データウエストと三洋電機の両者併記にならないか、〈2〉支給部品について、有償の方が工場(三洋電機オプティック事業部)のソフトに対する意識が高まる、〈3〉裁判管轄を東京に希望する、との要請をした。データウエストの代表者は、いずれの点も受け入れなかったが、このようにPRODUCT・IDが権利者表示であることを三洋電機も認識していた。

(二) 本件基本契約書(甲一)の契約条項は、次のとおり、データウエストと三洋電機との関係で拘束力を有することを予定するものばかりである。

〈1〉 第三条の見積書の提出等につき、見積書を提出したのは三洋電機である。

〈2〉 第六条で「乙」は債務の全部又は一部を第三者に請負わせてはならないものとされているところ、本件基本契約の当事者が三洋マービック・メディアとなると、三洋電機は三洋マービック・メディアから全面的に再下請をしていることになり、当該条項に違反していることになる。

〈3〉 第七条で「乙」は品質保証体制を確立することが求められており、三洋電機は、データウエストに対し、品質保証部の位置づけを書類(甲一〇の1・2)で提出している。

〈4〉 第八条につき、そもそもデータウエストは、三洋マービック・メディアに何ら技術資料を提供したりしていない。

〈5〉 第九条は、三洋マービック・メディアには全く関係しない条項で、三洋電機との間でのみ意味がある条項である。これに基づき、データウエストは、スカジーケーブルを三洋電機の下請工場に直送している。

〈6〉 第一〇条は、商品の製作や品質管理状況についての項目であって、三洋電機との関係で初めて意味がある。

〈7〉 第一一条(関連発明等)、第一二条(損失負担及び残材の処理)、第一三条(貸与品等の管理責任)、第一四条(第三者の知的所有権の侵害)、第一六条(梱包)、第一七条(受入検査)、第一八条(受入検査不合格)、第二九条(契約終了及び解除後の義務)、第三〇条(金型・機械・工具・治具・技術資料等の返還)、第三一条(事業場等の立入の場合の注意)の各条項は、いずれも実際に本件CD-ROMを製作する者との関係で意味のある条項である。

〈8〉 第三八条(裁判管轄)について、東京地方裁判所か大阪地方裁判所か議論の上、大阪地方裁判所に決まったのであり、三洋マービック・メディアの本店所在地(岐阜県安八郡)を管轄する裁判所にすることは問題にならなかった。

4 三洋電機は、ソースコードをデータウエストが保有していないことは、著作権がデータウエストに帰属していないことの証左である旨主張するが、本件CD-ROMドライブの著作権は原始的にデータウエストに帰属しているのであるから、この点は、もともと問題とならないが、その点はおくとしても、本件CD-ROMドライブは、データウエストがアメリカや韓国等における海外販売も含めて将来にわたって三洋電機から継続して生産供給を受ける予定であり、三洋電機も、また、その予定であったこと、そして、そもそも本件プログラムは周辺機器の制御プログラムであり、書き込み変更が不可能なチップに書き込まれており、バージョンアップすることはないので、改訂の必要性があったわけでもないことから、ソースコード等の引渡しを受けておく必要もなかったことによる。

5 仮に、本件基本契約書(甲一)は、データウエストと三洋マービック・メディアとの間の契約であったとしても、次の理由から、三洋マービック・メディアと三洋電機とはデータウエストとの関係で法的に単一体として評価を受けるので、当該契約の効力は三洋電機にも及ぶ。

(一) 本件基本契約書(甲一)の調印に当たり、三洋電機側が関与している。

(二) 本件CD-ROMドライブの販売に関する経理処理は、三洋電機と三洋マービック・メディアとで一体的に行われている。本来、独立した企業の場合、顧客や売上経理関係は最も重要な企業秘密の一つであるところ、本件の場合、本件CD-ROMドライブの販売関係の一切につき、三洋電機が管理している。

(三) 三洋マービック・メディアは、三洋電機がその資本金を全額出資して設立された株式会社である。

(四) 三洋マービック・メディアの代表者は、光ディスク事業部事業部長奥俊治、本店所在地は光ディスク事業部の製造事業所と同一、出先機関も東京・大阪・名古屋のいずれも光ディスク事業部と同一、設立時の従業員も全員が光ディスク事業部の人員で、三洋マービック・メディア自身、設立時に光ディスク事業部の「従来の機能をそのまま引き継ぎ」「今まで通り」の取引を求めている(甲七一)。

(五) 三洋マービック・メディアの従業員自身、三洋電機の一営業部門とか窓口であると称していた。

【三洋電機の主張】

1 データウエストが、本件CD-ROMドライブに関する著作権をはじめとする知的財産権がデータウエストに帰属しているとする根拠は、次のとおり理由とならない。

(一) データウエストの主張によれば、三洋電機は開発したタイプAドライブを製品として三洋マービック・メディアに販売しただけでなく、その知的財産権をも三洋マービック・メディアを通じて大空に譲渡したことになる。しかしながら、三洋マービック・メディアは、三洋電機が開発製造したタイプAドライブを商社として仕入れ、これを大空に販売していただけであり、これに関する知的財産権を有するものではないし、三洋電機との取引によって、三洋電機の有する右知的財産権を取得することもない。また、三洋電機から右知的財産権を処分する権限を授与されたこともない。もともと、メーカーが製品の購入者に製品の知的財産権までも譲渡することは、通常の商取引においてはみられないことである。しかも、タイプAドライブのように汎用性があり、自社ブランド又は他社のOEM製品として大量販売が可能な製品について、その知的財産権を何ら対価を得ることなく製品の購入者に譲渡することなどおよそあり得ない。仮に、本件基本契約書が知的財産権の譲渡を含む契約であれば、譲渡の対象となる知的財産権の範囲を特定し、その譲渡の対価を定めることになるはずであるが、本件基本契約書ではこれらの点が全く欠落しており、およそタイプAドライブに関する知的財産権の譲渡を目的とする契約の体をなしていない。

(二) データウエストは、タイプAドライブを起動させたときに、初期画面にPRODUCT-IDとしてDATAWESTと表示されることから、データウエストが著作権者であると主張するが、そもそもこのPRODUCT-IDは製品表示の意味であって、著作権者名の表示ではない。著作権の表示は、「〈C〉+COPYRIGHT+著作権者名+最初の発行年」と表示することが定着している。本件CD-ROMドライブは、三洋電機が開発し製造しているのであるが、データウエスト用のOEM製品であるために、PRODUCT-IDにデータウエストの表示及びその製品表示(DWR-22MS)がなされているのである。

また、梱包箱や取扱説明書にはデータウエストの社名やCOPYRIGHT表示がなされているが、右梱包箱やCOPYRIGHT表示はCD-ROMに関するものではないし、また、CD-ROM内のファームウエアのプログラムに関する表示でもない。なぜならば、現在、電化製品の多くは、機能の付加価値を高めるためにあらかじめプログラムを格納したファームウエアとマイコンが組み込まれているところ、何人もその電化製品そのものを著作物とは解しないし、また、ファームウエア(プログラム)も外部から見えず、機能的にもその電化製品の一部材にすぎないために取引において意識されることもないからである。本件においては、データウエストは、タイプAドライブをOEM製品として自社名で販売するに当たり、デバイスドライバ(CD-ROMドライブを円滑に制御するためのプログラム)のフロッピーを同梱していることから、梱包箱にはCD-ROMドライブユニットと記載されているのである。そして、CD-ROMドライブユニットにおいて意識されるプログラムは通常フロッピーディスクで添付されているプログラムであるところ、本件の場合、データウエストがこれにつき著作権を有していることから、梱包箱や取扱説明書にデータウエストの著作権表示がなされているのである。すなわち、梱包箱や取扱説明書の著作権表示は、CD-ROMに添付されているデバイスドライバについての著作権表示なのである。

(三) プログラムは、自由度のないコンピュータを対象にするために誤記や文法上の誤りが少しでもあると作動しないし、日進月歩で進歩するために常に改訂(バージョンアップ)の必要がある。このため、著作権の譲渡に当たっては、将来の保守や改訂に備えるために、プログラムの内容を理解できる資料(ソース・コード、プログラム設計書等の文書)が必ず授受されるところ、本件においては、このような資料はデータウエストに対して手渡されていない。

2 本件の取引に至る経過は次のとおりであり、これを見ても、タイプAドライブ(ひいてはタイプBドライブ)を三洋電機が独自に研究開発したことは明らかであり、データウエストの主張は事実に反する。

(一) 光ディスク事業部・ディスク営業部は、平成四年三月頃、訴外キングレコード株式会社から大空を紹介され、大空から「OEM製品としてCD-ROMドライブの製造販売をしてもらえないか」との商談を持ちかけられた。光ディスク事業部では、当時、CD-ROMドライブの研究開発を行っていなかったが、CD-ROMドライブを研究開発している三洋電機の他の部署を紹介し、商社としてこの取引に関与したいと考えた。

そして、大空は、三洋電機のCD-ROMドライブをOEM製品として相手先ブランドで販売する事業計画を様々な企業に持ちかけていたが、平成四年六月、そのような一社として、それまで面識のなかったデータウエストに右商談を持ちかけたところ、データウエストも乗り気となって、デートウエスト、大空、ディスク営業部の間の商談が始まった。

(二) ディスク営業部は、当初、三洋電機の岐阜工場内にある教育システム事業推進部が訴外株式会社学習研究社に対しその製造するCD-ROMドライブをOEM製品として販売していたことから、教育システム事業推進部を入れて事業を進めようとしたが、教育システム事業推進部で製作していたCD-ROMドライブは、特殊なパソコン用OSに対応したもので、一般消費者には普及できないこと、価格面の隔たりが大きいことから、同年一〇月頃、右商談は打ち切られた。

(三) 三洋電機オプテック事業部(以下「オプテック事業部」という)は、平成三年の終わり頃から、独自にMS-DOSに対応したCD-ROMドライブの開発を、開発コード名をCDR-92(年度が変わったことによりCDR-93に変更)として始め、平成四年四月一六日にはタイプAドライブのボディとほぼ同じデザインが完成した。

平成四年一一月、訴外スター精密株式会社(以下「スター精密」という)から、OEM製品としてCD-ROMドライブを提供してほしいとの商談がオプテック事業部に持ち込まれ、両者は、事業化に向けて折衝を重ね、平成四年一二月二八日に、オプテック事業部からスター精密にモデルの仕様を提示し、翌五年二月九日、これを基本にスター精密からの希望を容れて、若干の変更をして、CDR-93仕様が決定された。オプテック事業部は、右仕様による試作品の製造に、平成五年二月から着手し、四月に完成、これと平行して金型の発注許可も得て、量産の準備を進めていた。一方、三洋電機は、平成五年五月一九日から、東京晴海の「ビジネスショー」にCDR-93を展示した。

ところが、オプテック事業部とスター精密との間で、価格面の隔たりが克服できず、また、OEM製品として自社ブランドで販売した場合、独自にメンテナンス体制を確保しなければならないところ、そのコスト負担が大きすぎることから、結局、平成五年六月、右事業は打ち切られた。

(四) 平成五年二月中旬、大空とディスク営業部との間で、再び、データウエストへのOEM製品の供給の商談が再開した。ディスク営業部で、再び、教育システム事業推進部に連絡したところ、三洋電機では、同年六月一日をもって、CD-ROMドライブの事業をすべてオプテック事業部に統一することが決まったことなどから、オプテック事業部が独自でCDR-93を開発していることを初めて知った。ディスク事業部は、同年三月一五日、大空及びデータウエストに対し、同時点で入手したCDR-93の仕様を示したところ、両者が積極的であったことから、四月六日、オプテック事業部の担当者が初めて大空及びデータウエストに対し技術的な説明をし、五月二一日、データウエストらもこれに満足した旨の回答がなされ、この結果、オプテック事業部がデータウエスト用のOEM製品を供給する商談が進められることとなった。同五年六月に三洋マービック・メディアが設立され、大空との取引を光ディスク事業部から引継ぎ、オプテック事業部は、その製造したCD-ROMドライブを三洋マービック・メディアに販売し、三洋マービック・メディアがこれを大空に販売するという商談が進められていった。なお、バッファメモリが当初の仕様では六四キロバイトであったものをデータウエストの希望により二五六キロバイトに拡張し、また、バッテリー駆動にも対応していた機能削除するなどしたが、その際に必要な設計や作業の変更はすべてオプテック事業部が単独で行った。

(五) パソコンでCD-ROMドライブを扱うために必要なプログムである、デバイスドライバについては、デーウエストがCDR-93の規格機能に準拠したものを新たに作成し、これをCDR-93に添付して販売することとなったことから、オプテック事業部は、データウエストに対し、デバイスドライバ作成のための資料として、平成五年四月一三日、SCSI-2の仕様書、同年五月二四日、同時点でのCDR-93を、同年六月二五日、その機能の一部を修正したタイプAドライブの試作品をそれぞれ提供したほか、データウエストからの技術的な質問に対し、逐一、指導・情報の提供をした。これに対し、データウエストも、提供を受けたCDR-93でデバイスドライバを作動させたテスト結果をオプテック事業部に連絡し、それに応じて、オプテック事業部が独自の判断で本件プログラムを修正し、タイプAドライブとして完成させた。

そして、CD-ROMドライブの量産に入る前に、オプテック事業部としても、データウエストが作成したデバイスドラブイバをタイプAドライブで実際に作動させて、自ら最終テストをしておく必要から、平成五年九月二七日、デバイスドライバ使用に関する覚書(甲八)を作成して、データウエストから右デバイスドライバを受領し、最終テストを完了した後、同年一〇月一八日にタイプAドライブの受注をして、同月二二日に出荷を始めた。

出荷に当たっては、オプテック事業部は、タイプAドライブにデータウエストの製品番号や商号を印刷して完全な完成品とし、かつ、マニュアル等も添え、三洋マービック・メディアからこれを仕入れた大空が、データウエスト作成のデバイスドライバ等を添付して最終梱包し、データウエストに再出荷した。

3 本件基本契約書(甲一)は、三洋マービック・メディアと大空との間で締結されたものであって、データウエストにも三洋電機も何ら効力を及ぼさない。

データウエストは、三洋電機と三洋マービック・メディアとを同一視し、本件基本契約書の効力が三洋電機にも及ぶと主張するが、かかる主張は次のとおり失当である。

(一) 三洋マービック・メディアは、平成五年六月一日、資本金九〇〇〇万円で設立された株式会社で、本店所在地は岐阜県安八郡安八町大森一八〇番地、従業員は約一七〇人、平成六年五月三一日までの初年度の売上は金六〇億円で、組織、事業の点で完全に三洋電機から独立して事業を行っている株式会社である。子会社であっても、独立した法主体で、親会社とは別個の権利能力を有するのであるから、法人格の形骸化又は法人格の濫用のような例外的な場合でない限り、単に子会社であるというだけで三洋マービック・メディアが締結した契約の効力が親会社である三洋電機に及ぶとはいえない。しかも、本件においては、三洋マービック・メディアは、三洋電機から、本件CD-ROMドライブを仕入れて大空に販売しているところ、大空はその代金を三洋マービック・メディアに支払っており、大空が三洋電機に、あるいはデータウエストが三洋電機代金を支払ったという事実はない。

(二) 三洋マービック・メディアは、その設立に先立ち、大空や三洋電機に会社設立の説明をしているし、通信文を送信するときも「三洋マービック・メディア」の肩書きを使用しており、三洋電機の名称を表示したことはないし、データウエストや大空も、通信文を送信する際の宛先を「三洋マービック・メディア」としていたのであって、三洋電機と三洋マービック・メディアとを混同していたことはない。三洋電機の従業員の一部が三洋マービック・メディアを三洋電機の「営業」と呼称していたとしても、本件の取引は、そもそもタイプAドライブを三洋電機から三洋マービック・メディア、大空そしてデータウエストへと販売するもので、三洋マービック・アィアと大空とは商社として活動したのであるから、三洋電機の従業員が三洋マービック・メディアを別会社でありながら「営業」と称したとしても何ら不自然ではない。

(三) 確かに、デバイスドライバの授受や現場サイドの打ち合わせは、データウエストと三洋電機との間で行われているが、CD-ROMドライブの製造者が最終のOEM受給者から機器の仕様につき希望を聴取することは通例である。

(四) 三洋電機は、本件基本契約書の存在を、平成六年三月になってから初めて知ったのであり、当然、契約書の作成に関与していない。データウエストは、本件基本契約書に関し、平成四年九月頃から三洋電機法務部と連絡を取りながら交渉が進められた旨主張するが、別会社である三洋マービック・メディアの契約に、三洋電機の法務部が関与することは原則としてないし、本件も同様である。また、そもそも本件基本契約書の各条項は、大空に一方的に有利な規定が多く、公序良俗に反する疑いがあるものもあり、仮に三洋電機の法務部が関与していれば、このような不合理な契約条項に調印するはずがない。

(五) 本件基本契約書(甲一)と同時期に作成された、デバイスドライバの使用に関する覚書(甲八)は、データウエストと三洋電機を契約当事者としている。このことからすると、データウエストが本件基本契約書が三洋電機との契約であるとの認識であれば、当然に、右覚書と同様に、データウエストと三洋電機を当事者とすることを要求し、そのような契約書が作成されていたはずであるが、実際には、三洋マービック・メディアと大空とを当事者とする契約書となっており、データウエストはこのことにつき、異議を述べていない。

三  争点3(三洋電機は、データウエストに対し不法行為責任を負うか)及び争点4(三洋電機は、データウエストに対し不正競争防止法に基づく責任をう負か)について

【データウエストの主張】

1 三洋電機は、本件CD-ROMドライブに関する著作権、特許権、意匠権、商標権その他一切の知的所有権がデータウエストに帰属していることを認識しながら、データウエストに無断でエレコムに対し、タイプAドライブをブランド名「「Fixell-PORT CD ELECOM」としてプログラムも形態もそのまま販売し、これによって、データウエストは損害を被った。

2 また、三洋電機は、訴外豊田通商株式会社を通じて、メディアビジョンに、タイプAドライブとはCD取り出し方法が異なる点を除き他は同じであるタイプBドライブを販売し、これにより、データウエストは損害を被った。

3 三洋電機の右各行為は、民法七〇九条又は不正競争防止法二条一項三号に該当する。

【三洋電機の主張】

1 本件CD-ROMドライブ関する著作権、特許権、意匠権、商標権その他一切の知的所有権というだけでは意味がわからないので、そもそもデータウエストの請求は主張自体失当である。

また、タイプAドライブはそもそも三洋電機が開発したものであって、データウエストは何らの権利も取得していないから、その意味でもデータウエストの主張は失当である。

2 タイプAドライブとタイプBドライブとは全く異なるCD-ROMドライブであって、プログラムも異なるから、タイプAドライブにつき何らかの法的権利をデータウエストが持っていることを根拠にタイプBドライブについてもを差止め等を求めることはできない。

3 しかも、そもそも不正競争防止法二条一項三号は、同法が施行された平成六年五月一日以前から継続されている行為には適用されない(同法附則三条二号)ところ、三洋電機は、平成五年一〇月中旬から、タイプAドライブを三洋マービック・メディアに継続して販売していたし、その後、エレコムにOEM製品として販売するようになったのも、右三洋マービック・メディアに対する販売の継続としてしているのであるから、同法の適用がないのは明らかである。

四  争点5(三洋電機は、データウエストに対し、債務不履行責任を負うか)について

【データウエストの主張】

1(一) 本件CD-ROMドライブ(タイプA及びタイプB)に関して、データウエストと三洋電機は、次のような骨子の契約を締結し、本件基本契約書を作成した。

〈1〉 データウエストは、三洋電機に対し、開発のために必要な指導、情報提供、検査、報告を行う。

〈2〉 三洋電機は、右情報、技術資料については一切第三者に漏らしてはならない。

〈3〉 開発商品にかかる著作権、意匠権等、知的所有権一切はデータウエストに帰属する。

〈4〉 開発商品の仕様はデータウエストが決定し、データウエストの発注に基づき三洋電機は製造、納品する。

〈5〉 開発商品について、三洋電機は他に販売、譲渡、使用など一切しない。

〈6〉 裁判管轄を大阪とする。

(二) 右のとおりの契約により、三洋電機は、〈5〉の義務があるにもかかわらず、データウエストに無断で、本件CD-ROMドライブをエレコム、メディアビジョン等に販売し、右三洋電機の行為によって、データウエストは損害を被った。

2 確かに、本件基本契約書(甲一)は、大空と三洋マービック・メディア間の契約書となっているが、前記二の【データウエストの主張】で主張したとおり、大空はデータウエストの、三洋マービック・メディアは三洋電機の、それぞれ窓口で、その名義が使用されたにすぎないので、実体は、データウエストと三洋電機との間の契約である。

【三洋電機の主張】

1 本件において、三洋電機は、データウエストとは直接の契約をしてしない。本件基本契約本書(甲一)が三洋電機とデータウエスト間の契約ではないことは、前記二の【三洋電機の主張】で主張したとおりである。

2 三洋電機が、タイプAドライブをエレコム等に販売せざるを得ないようになったのは、次のような事情による。すなわち、データウエストは、大空を通して、平成五年一二月末までに三万台、平成六年二月末までに六万台を買い取ると約したにもかかわらず、平成五年一一月半ばまでに八八五〇台を買い取っただけであった。CD-ROMドライブなどパソコン周辺機器は三か月程度で陳腐化してしまうことから、三洋電機は、製品、半製品の在庫を大量に抱えながら、CDR-93の商品価値が急速に低下していくことに苦慮し、三洋マービック・メディアに対し、約定どおりの商品の引き取りを、また、三洋マービック・メディアも大空に対し、商品の引き取りを強く求めたが、逆に一台当たりの価格を五〇〇〇円も値下げせよという要求が繰り返しされたことから、結局、三洋マービック・メディアと大空との取引は事実上破綻し、平成五年一一月半ば以降全く発注がなくなってしまった。このため、三洋電機は、他にOEM販売先を探す必要が生じ、エレコム向けOEM取引の商談が持ち上がった。もつとも、データウエスト向けOEM取引が事実上破綻したとはいえ、平成六年二月までは、データウエストの優先販売期間であったことから、同年三月中旬からエレコム向けOEM取引を開始したのである。

五  争点6(三洋電機が、データウエストに対し、損害賠償義務を負う場合に支払うべき金銭の額等)について

【データウエストの主張】

三洋電機の行為によって、データウエストが被った損害は次のとおりである。

1 データウエストは、本件CD-ROMドライブを各販売業者に卸す方法で売却しており、その際の価格は、たとえば、三洋電機情報機器株式会社(三洋電機の関連会社)には、一台当たり二万六四〇〇円であった。一方、データウエストは、三洋電機の行為によって在庫四六三台が市場で販売できない状態となっている。

よって、在庫を抱えたことにより、データウエストが被った損害は、一二二二万三二〇〇円(二万六四〇〇円×四六三台)である。

2 逸失利益

(一) 三洋電機は、エレコム等に合計一万五〇〇〇台を出荷したが、右台数分は本来データウエストが販売し得た台数である。そして、データウエストは、三洋電機から一台当たり一万七〇〇〇円で仕入れているので、データウエストは、一億四一〇〇万円〔(二万六四〇〇円-一万七〇〇〇円)×一万五〇〇〇台〕の利益を得られたはずであり、データウエストは同額の損害を被ったことになる。

(二) データウエストは、当初から海外販売(一〇万八〇〇〇台)も計画していたところ、三洋電機の行為により不可能になった。一台当たりの利益額は、海外の場合も国内におけるそれを下回ることはあり得ないので、結局、データウエストは、一〇億一五二〇万円〔(二万六四〇〇円-一万七〇〇〇円)×一〇万八〇〇〇台〕の利益を得られたはずであり、データウエストは同額の損害を被ったことになる。

(三) データウエストは、本件CD-ROMドライブを定価六万九八〇〇円で販売していたところ、三洋電機がエレコムに販売した商品は、一台当たり四万九八〇〇円の定価を設定ながら、実売価格は二万九八〇〇円という一種のバッタ売りがなされたため、価格が混乱し、データウエストは、従前の販売先から返品や値引きを要求されるようになった。

データウエストは、その開発力に対する高い評価や信用を基に着実に取引を行ってきたにもかかわらず、三洋電機の行為によって、かかる評価や信用が破壊されようとしており、信用名誉の回復方法として十分とはいえないまでも、謝罪広告が必要不可欠な措置である。

【三洋電機の主張】

争う。

六  争点7(大空、大空正二、芝野惠自及びデータウエストは、三洋マービック・メディアに対して金銭支払義務を負うか)について

【三洋マービック・メディアの主張】

1(一) 三洋マービック・メディアは、平成五年一〇月頃、本件CD-ROMドライブを三洋電機から購入して大空に納入し、大空がデータウエストに販売する取引を開始した。

そして、三洋マービック・メディアは、同年一一月二日、大空との間で、大空が三洋マービック・メディアの取扱商品を継続して購入し、販売する旨の特約店引受契約(以下「本件特約店引受契約」という)を締結するとともに、同日、データウエスト、大空正二、芝野惠自が、右特約店引受契約に基づき三洋マービック・メディアに対し、現在及び将来負担する一切の債務の履行につき連帯保証した。

(二) 三洋マービック・メディアは、平成五年一〇月から平成六年三月末日まで、大空に対し、本件CD-ROMドライブを八八二三台販売し、合計一億七四四八万三六四八円の売掛債権を取得した。ところが、大空は、右のうち一億二七九一万一三五〇円を支払ったのみで、残額の四六五七万二二九八円を支払わない。

2 本件特約店引受契約につき、〈1〉契約自体不成立である、〈2〉錯誤により無効である、〈3〉詐欺を理由に取り消した、というデータウエストらの主張はいずれも争う。

3 前記二の【三洋電機の主張】のとおり、タイプAドライブを開発したのは、三洋電機であってデータウエストではないし、三洋電機は、タイプAドライブに関する知的所有権をデータウエストに譲渡する旨合意したこともない。また、そもそも三洋電機が、メディアビジョンに販売したのは、タイプBドライブであるところ、前記のとおり、タイプAドライブはタイプBドライブとは異なるCD-ROMドライブである。したがって、三洋電機の行為が、データウエストに対する不法行為を構成するはずがない。

仮にこの点をおくとしても、本件特約店引受契約は、大空と三洋マービック・メディアとの間で締結された契約であるところ、前記のとおり、三洋マービック・メディアは三洋電機とは別法人であるから、三洋電機に対する損害賠償請求権をもって、三洋マービック・メディアの請求に対して相殺することはできない。

4 三洋マービック・メディアは、データウエストらに対して、三洋電機とデータウエストとの紛争が解決するまで売掛金請求を留保する旨約したとの主張は否認する。

仮に、この点をおくとしても、三洋マービック・メディアから請求の留保若しくは支払猶予の申出がなされていたとしても、あくまでも三洋電機との紛争を早期かつ穏便に解決することを条件としており、訴訟に至ったり、解決が長期化した場合にまで売掛金につき支払を猶予するものではない。そして、右三洋電機とデータウエストとの紛争については本件第一事件訴訟が提起されているのであるから、請求の留保があったとしても、すでに失効している。

【大空、データウエスト、大空正二、芝野惠自の主張】

1(一) 本件CD-ROMドライブに関する取引は、前記のとおり、実質的にはデータウエストと三洋電機との間で締結されたものである。本件特約店引受契約についても、データウエストは水野から、従前の大空と三洋電機の決済枠を拡大する必要上、三洋電機に対し経理条の必要から差し入れるもので、三洋電機との契約である旨の説明を受けた。そのうえで データウエストは、相手方当事者欄が空欄の平成五年一一月二日付特約店引受書(以下「本件特約店引受書」という。第二事件甲一)の連帯保証人欄に記名押印したのである。かかる事情は、データウエストのほか、大空、大空正二、芝野惠自のいずれも同様である。

したがって、データウエスト等は本件特約店引受契約の相手方が三洋電機と信じていたのであるから、三洋マービック・メディアとの間では、そもそも契約締結の意思の合致がなく、契約自体不成立である。

(二) 仮に、契約自体は成立しているとしても、右のとおり、データウエスト等は契約相手方が三洋電機であるとの説明を受けた結果本件特約店引受書に署名したものであるから、詐欺によりデータウエスト等は錯誤に陥っていたことになるので、契約は当然に無効である。

また、そうでなかったとしても、データウエスト等は、平成九年一一月一一日付準備書面により、詐欺を理由に当該契約の意思表示を取り消した。

2 前記二【データウエストの主張】のとおり、本件CD-ROMドライブに関する一切の知的所有権はデータウエストに帰属しているにもかかわらず、三洋電機は、データウエストに無断で本件CD-ROMをエレコム等に販売して、データウエストに対し、前記五【データウエストの主張】のとおり、損害を与えた。このため、データウエストは、三洋電機に対し損害賠償請求権を有する。

よって、三洋マービック・メディアの請求権と右損害賠償請求権を対当額をもって相殺する。

3 三洋マービック・メディアの取締役部長岡野は、平成六年三月の話し合いの際、データウエストと三洋電機との紛争(第一事件)が解決するまで、残金請求は保留する旨約束した。

第四  争点に対する当裁判所の判断

一  争点1(第一事件における著作権の対象とされる本件プログラムの著作物性)について

1  本件プログラムが、著作権法上の「プログラムの著作物」として保護されるためには、電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの(同法二条一項一〇号の二)であり、かつ、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(同法二条一項一号)でなければならない。

本件プログラムが、CD-ROMドライブを動作させるもので、右の電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものであることは、データウエストと三洋電機の間に争いはない。

本件プログラムは、オブジェクトプログラムであり、データウエストは、本訴において、オブジェクトプログラムのダンプリストを提示するのみである。確かに、オブジェクトプログラムのダンプリストは、いわゆる機械語で記述されているため専門的な知識がなければプログラムの概括的な意味を理解することは困難である。しかしながら、オブジェクトプログラム自体もまた、著作権法上保護されるプログラムであることについては解釈上確立しているところである。

2  本件プログラムには著作権法による保護の対象となる程度の創作性は認められない旨の三洋電機の主張について

確かに、プログラムであることから、直ちに著作権法上の保護の対象となるわけではない。しかしながら、本件プログラムは、CD-ROMドライブの機能を制御することを目的とするものであるところ、そのようなプログラムは対象となるCD-ROMドライブ個々の機能によって、その内容も異なることは明らかである。そして、CD-ROMドライブは、CD-ROMに書き込まれたデータを読み出すという機能を営むところ、データの読み出し方は、CD-ROMドライブの機能が決まれば必然的に決まるというものではないのであるから、本件プログラムは著作権法による保護の対象となる程度の創作性はあるとみるのが相当である。よって、三洋電機の主張は採用できない。

二  争点2(本件プログラムの著作権はデータウエストに帰属しているか)について

1  本件プログラムの特定に当たり、データウエストは本件プログラムのオブジェクトプログラムのダンプリストを提示するものの、ソースコードの提示はなく、かつ、ソースコード自体は当初から三洋電機が所持しており、データウエストが引き渡しを受けたこともないことにつき、データウエストと三洋電機間に争いはない。

2  甲第一号証、第四号証の1・4・5・7、第五号証の1・2、第六ないし第九、第一一号証、第一二号証の1・2、第二一号証、第二二、第三〇、第三二、第三三、第三五ないし第三七、第三九ないし第四四号証、第四六号証の1・2、第五四、第五六、第五八、第六三、第七〇ないし第七三、第七七号証、乙第一号証の1・2、第二、第三号証、第四号証の1~12、第五号証の1~8、第七号証、第八号証の1~3、第一〇、第二九号証、第三一号証の1~3、第三七、第三八号証、検乙第一号証、証人水野博、同奥村八郎の各証言、データウエスト代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 三洋電機では、オーディオ機器等を扱うオプテック事業部(群馬県大泉町所在)において、平成三年後半から独自に、開発コード名「CDR-92」(その後、CDR-93に変更)でCD-ROMドライブの開発に着手しており、平成四年四月にはタイプAドライブのボディとほぼ同じデザインを完成し(乙一)、同年一一月頃からインターフェイスをSCSI対応に絞り、開発コード名「CDR-93」の開発に取り組み、スター精密からOEM製品を供給してほしいとの商談も受けていた。オプテック事業部は、同年一二月二八日には、スター精密にCDR-93の仕様書(乙二)を提出し、平成五年二月九日には、スター精密からオプテック事業部に対し、「CDドライブの仕様について」と題する書面(乙三)が送付されている。

(二) 一方、三洋電機の光ディスク事業部(東京都台東区所在)・ディスク営業部は、平成四年四月頃から得意先のキングレコードの紹介で、大空との間で音楽CDの販売取引を始めたが、大空は、光ディスク事業部にCD-ROMドライブの商談を持ちかけるとともに、取引関係のあったデータウエストにも同様の商談を持ちかけ、データウエストもこの商談に乗り気になった。

データウエストは、ソフトウエアの規格・製作・販売、プログラム受託開発等を業とする株式会社であり、CD-ROMのソフト開発プログラムを開発した実績もあった。

同年六月頃には、ディスク営業部の担当者水野主任らの案内で、大空とデータウエストの代表者等関係者が三洋電機の教育システム事業推進部(岐阜県安八町所在)を訪ね、CD-ROMドライブについての説明を受けたり、工場見学をしたりした。教育システム事業推進部では、学習研究社向けのOEM製品のCD-ROMドライブを開発して、販売していた。しかし、教育システム事業推進部で製造していたCD-ROMドライブは、特殊なパソコン用OSに対応したもので汎用性がなかったことなどから、大空及びデータウエストと教育システム事業推進部との間の商談は、同年一〇月頃で打切りになった。

光ディスク事業部・ディスク営業部では、教育システム事業推進部と大空及びデータウエストの間の商談は打切りになったものの、別にオプテック事業部でもCD-ROMドライブの開発を進めていることを知り、その後はオプテック事業部との間で商談を進めていった。右商談は、光ディスク事業部が商社的立場で関与し、オプテック事業部からCDR-93を仕入れて大空経由でデータウエストに販売することを企図したものであったが、オプテック事業部においても、従前からスター精密との商談もあり、三洋電機の自社ブランドでもCDR-93を販売する予定であった。

(三) 平成五年三月一五日、ディスク営業部は、オプテック事業部から聴取したCDR-93の仕様をまとめて、データウエストに対し、「CD-ROMドライブ仕様(仮)」と題する書面を送付した(乙一〇)。右書面には、「現在開発中の当社CD-ROMドライブ、CDR-93モデルの仕様は下記内容です。但し、仕様変更が発生する場合には事前に連絡をいたします。」と記載されている。

同月二二日付で、オプテック事業部は、金型発注許可書(乙四の1~12)を作成している。右金型発注許可書には「CDR-93 10万台」「仕向地 全世界」 「CD-ROMドライブ (現時点Z波価格)スター精密 \19800(工場出)光ディスク \18700(基販社)SBEE \20000(調整中)」と記載されている。右の「スター精密」はスター精密向けOEM、「光ディスク」は光ディスク事業部経由データウエスト向けのOEM、「SBEE」は自社ブランドによるヨーロッパ向け販売の意味である。

(四) 同年四月五日、三洋電機オプテック事業部は、「製品名 仮称名CDR-93」とする「CD-ROMドライブ仮仕様書」と題する文書を作成した(甲五八添付の(2))。

同月六日、株式会社アートヨシイから三洋オプテック事業部資材部宛に、「機種名 13736720 CDR-93,STR」「見積区分 新造」と記載された「成型金型御見積り書」が作成されている(乙五の1~8)。また、同日、データウエストに対し、光ディスク事業部から「ROMドライブ最終確認」と題する文書が渡された(甲七)。右文書には、「サンプル出荷品納期について」の項があり、「6/25」との書き込みがある。

同月二一日、オプテック事業部資材部で、「機種名 CDR-93STR」とする「新規金型代決済一覧」が作成された(乙七)。

(五) 同年五月一九日から二二日まで、東京・晴海で「ビジネスショウ93TOKYO」が開催され、三洋電機は、CDR-93を二倍速でマルチセッション対応であると表示して参考出品したが、実際には等倍速でシングルセッションであった(乙八の1~3、検乙一)。

(六) 同年六月一日、三洋電機の子会社として、光ディスクを中心としたマルチメディア事業を推進するため、三洋マービック・メディアが設立され、三洋マービック・メディアは、従前の光ディスク事業部の機能を引き継いだ(甲七一、乙四一、四二)。三洋マービック・メディアは、本社を岐阜県安八町の三洋電機岐阜事業場内に置き、東京都千代田区に光ディスク営業部を設け、資本金九〇〇〇万円、従業員数約一八〇名、年商約一〇〇億円である。三洋マービック・メディア設立後は、従来光ディスク事業部が担当していたデータウエスト及び大空とのCD-ROMドライブの商談も、三洋マービック・メディアが引き継ぐことになった。

(七) 同年六月二五日、オプテック事業部は、データウエストに対し、「CD-ROMドライブ 技術仕様書(コマンド仕様)」(SCSIインターフェイス仕様暫定版 1993.6.25)を渡した(甲五八)。

同じ頃、オプテック事業部は、スター精密との間のOEM生産の計画を中止することを決定した。

同年七月五日、データウエストは、販売予定先である訴外日本ケミコン株式会社に対し、「契約スケジュール(案)」と題する文書を作成して渡した(甲三〇)。右文書には、「七月九日 日本ケミコン株式会社様~弊社、契約書原案、七月一四日 三洋電機株式会社様~弊社、仮契約締結、七月一六日 日本ケミコン株式会社様~弊社、契約書締結、七月二六日マイクロソフト株式会社様~弊社、ライセンス契約書発送、七月二七日三洋電機株式会社様~弊社、本契約書締結」と記載されている。

同月二一日、データウエスト開発本部システム開発課の従業員鷲津義之(以下「鷲津」という)は、オプテック事業部第二技術部の主任技術員城宝輝一(以下「城宝」という)に対し、「NIFTY-ServeのIDの件」と題する文書を電子メールで送信した(甲三二)。右文書には、「Logtec社のCD-ROMドライバをSANYOドライブ用に変更して、シングルセッションと思われるPhotoCDのディレクトリ情報を見ることができた。自社製CD-ROMドライバではボリューム名は表示されるがディレクトリは見ることができない。」旨の記載がある。

同月二七日、城宝は、鷲津に対し、シングルセッションのディスクと同じ様にデバイスドライバから見えるようにできないかを検討中である旨を電子メールで回答をした(乙二九)。

(八) 同年八月三日、オプテック事業部はデータウエストに対し、「CD-ROMドライブ仕様書 弊社仮製品名 CDR-93」と題する文書を作成して渡した(甲六三の添付(3))

同月二一日、鷲津から城宝に対し、ようやくシングルセッションのPhotoCDは読めるようになった旨の文書が電子メールで送信された(甲三三)。

同月二二日、城宝から鷲津に対し、「先週ようやくマルチセッション対応ファームウェアが動いた。PhotoCD以外のマルチセッションディスクについても動作確認したい。そちらでマルチセッションのディスクを作れたら、送っていただきたい。」旨の文書が電子メールで送信された(甲四〇)。

同月二六日、オプテック事業部の塚原からデータウエストの代表者に対し、「題CD-ROM SPL発送の件」と題する文書が送付され、右文書には、マルチセッション対応SPLを送付すること、SUB-CODEは未対応であることが記載されている(甲四一)。

同月三一日、城宝から鷲津に対し、サブコードリードコマンドについて相談したい内容が発生した旨の文書が電子メールで送信された。右文書には、SONYのみがこのコマンドに対応していることのほか、城宝から鷲津に対する私信として、ファームウェア開発担当者の負担を考えると、このコマンドの有無がCDR-93にとって非常に重要であるという特別な理由なければ中止(延期)を希望している旨も記載されていた(甲四二)。

(九) 同年九月五日、鷲津から城宝に対して、サブコードリードコマンドに対する質問を課内で検討した結果と、「サブコードリードコマンドは個人的にはあまり重要と考えていない。しかし、CDカラオケ等のソフトを作成する場合必要なので、実現可能な機能は最初から付けておいてほしい。」旨記載された文書が電子メールで送信された(甲三五)。

同月六日、データウエストは、「CD-ROMドライブ(CDR-93XX)のINQUIRYコマンドの不具合について」と題する文書を作成し、CDR-93XXの専用ドライバを作成するに当たっては問題ないが、フリーウェア等がCDR-93XXを認識できない場合があることが指摘されていた(甲二二)。

同月七日、鷲津から城宝に対し、正確なINQUIRYデータを得ようとした場合正常に動作しなかった旨の文書が電子メールで送信され(甲二一)、これに対して、翌八日、城宝から鷲津に、inquiryの追加データ長が変化することによる問題点の指摘につき感謝し、すぐ修正する旨記載された文書が電子メールで送信された(甲四三)。

同月二五日、鷲津から城宝に対し、マルチセッションのPhotoCDを読む場合の不具合のほか、「PC-9800シリーズ用、IBM用のCD-ROMドライバーのソフトと簡単な使用説明を付けておきます。『必ずドライバーソフトの使用契約をしてください』と秋田から伝えておくように言われていますので、契約の件お願いします。」等と記載された文書が電子メールで送信された(甲三七)。

また、同日、城宝から鷲津に対し、「送ってもらったデバイス・ドライバでテストしたが症状を再現できない。こちらの環境を書くので、違いがあったら教えてください。」との記載のある文書が電子メールで送信され(甲四四)、鷲津から城宝に対し、「NIFTYからメール受信後、できる限りそちらの構成と同じ状況でテストしたところ、マルチセッションのCDを問題なく読むことができました。」との文書が電子メールで送信された(甲三六)。

さらに同日、データウエストの代表者から大空の代表者及び(CC)サンヨー岡野部長に宛てて、「契約書に対し変更依頼もなくドライバーソフト及び検査用ソフト等の支給ができない。暫定的に送ったソフトはオプテックの依頼もあり生産に対しやむを得ず行った。契約が遅れるようなら今回のソフトは契約に関わる貸出物とせず有償で貸すものとする。」と記載した文書が電子メールで送信された(甲五四)。

同月二七日、オプテック事業部からデータウエストに対し「デバイスドライバ使用に関する覚え書き」が差し入れられた。右覚書には、使用場所をオプテック事業部内と生産担当工場に、使用目的をデータウエスト向けDWR-22MSとその関連機種の開発・設計・製造・品質管理に関わる業務に、限定する旨記載されている(甲八)。

(一〇) 同年九月二八日、同月二二日付で大空と三洋マービック・メディアの間で本件基本契約書が作成された(甲一)。

また、同日、城宝から鷲津に対し、「マルチセッションディスクのときリード2"16に対して必ず最終セッションの2"16が読まれるようにした。30日に送るサンプルで確認をしてほしい。現在のバージョンではデータのリード中にふたを開けると指摘された症状になる場合があるが、今対策中で近いうちに直す。資料1(JAS Journal '86 10月号「CDのサブコードについて」)資料2(COMPACT DISK TERMINOLOGY Disk Manufacturing,Inc)はコピーを送ります。資料3(Compact Disk Digital Audio System Subcode/Control and Display System Copyright PHILIPS/SONY)は勝手にコピーできない。PHILIPSから入手可能なはずだが、入手が時間的に間に合わないのであれば、条件付きで流せるように相談してみる。」旨記載された文書が電子メールで送信された(甲六三添付の(5))。

(一一) 同年一〇月一日、データウエストからオプテック事業部に対し、PRODUCT-IDにつき、MANUFACTURE DATAWEST 製品ID DWR-22MSとすると最終決定した旨の文書がFAXで送信された(甲九)。

同年一〇月八日、鷲津から城宝に対し、「PLAY AUDIO TRACK/INDEX(48H)コマンドのみではなく、すべての再生系コマンドで対応してほしい。再生を開始するときに発行したコマンドと違うコマンドで、終了位置あるいは再生ブロック数の変更ができるようにもしてほしい。」等と記載した文書が電子メールで送信された(甲三九)。

同月一八日、三洋マービック・メディアは、大空に対し、「ROMドライブに関する各種ご報告」と題する文書を送付したが、その中で、一〇月二六日、五〇〇台を訴外加賀電子株式会社(大空ないしデータウエストの販売先であるが、加賀電子のブランドで販売)向けに、一一月一五日、一〇〇〇台を大空向けにそれぞれ初めて出荷する予定であると記載されていた(甲七七)。

同年一〇月二二日頃、三洋電機は、タイプAドライブを加賀電子向けで初めて出荷した。

同月二三日、データウエスト及び大空は、連名で、オプテック事業部及び三洋マービック・メディアに対し、「ROMドライブ出荷依頼の件」と題する文書を送った(乙三一の1)。

同月二五日、データウエスト及び大空は、連名で、三洋マービック・メディアに対し、「ROMドライブ生産内容の件」と題する文書を送り(乙三一の2)、また、大空は、三洋マービック・メディアに対し、「CD-ROMドライブ出荷依頼の件」と題する文書を送った(乙三一の3)。

(一二) 同年一一月二日、本件特約店引受書が作成された(第二事件甲一)。本件特約店引受書は、大空が三洋マービック・メディアの取扱商品の販売特約店を引き受けるものとし、その内容を定めたもので、大空の記名押印のほか、連帯保証人として、大空正二、芝野惠自及びデータウエストの各署名押印がある。

同月一〇日、日経産業新聞に、データウエストがCD-ROMドライブを開発した旨の記事が掲載された(甲一一)。

同じ頃、加賀電子から三洋マービック・メディアに対し、納入されたCD-ROMドライブの電源についてクレームが出された。

同月一五日、三洋電機の情報機器事業部から、データウエスト及び三洋マービック・メディアに対し、「CD-ROMクレームの件」と題する文書がFAXで送信された(甲六九)。右文書には、クレーム症状は一七秒待たないと再度電源が入らないというものであること、対策案として、早期に保護回路のリセット時間に達するように保護回路の定数を変更することが考えられ、コンデンサーの容量を現行四・七μから四七μにワンランクアップする結果、現行一七秒が〇・五~二秒となる、ROM電源をPCのOUTLETに接続し、かつ、PC電源のON/OFFを繰り返すユーザーが対象となり、クレーム件数としては稀と理解している旨記載されている。

3  そこで、本件プログラムの著作者を検討するに、右2で認定した経過によれば、タイプAドライブの開発に当たり、三洋電機がデータウエストに対し、サブコードリードコマンドについて相談(甲四二)する等して助言や情報の提供を求めたことがあること、あるいはデータウエストが三洋電機に対し、INQUIRYデータについての動作の不具合を指摘(甲二一)したり、PLAY AUDIO TRACK/INDEX(48H)コマンドのみではなく、すべての再生素コマンドで対応してほしい、再生を開始するときに発行したコマンドと違うコマンドで、終了位置あるいは再生ブロック数の変更ができるようにもしてほしい等と要望(甲三九)したり、マルチセッションのPhoto-CDを読むことができないという不具合を指摘(甲三七)して、CD-ROMドライブを開発するに当たり有用と思われる情報を提供をしたり、要望をしたりしたことは認められる。しかしながら、データウエストから三洋電機に対して右のように提供された情報や要望の内容は、あくまでも試作品であるCD-ROMドライブを作動させた場合に不具合があることを指摘したり要望を述べる程度のものであって、右作動の不具合を解決するために、あるいは要望事項を実現するためにプログラムをどのように修正すべきかを具体的に指示しているものではないことが明らかである。したがって、このことをもってしては、データウエストが、本件プログラムについて創作的表現を作成するための作業を具体的に行ったと認めることはできない(右の作業を具体的に行ったのは、三洋電機のオプテック事業部であるというべきである)。

4  データウエストは、CD-ROMドライブを起動させた時の初期画面の表示や梱包箱、取扱説明書に記載された表示から、本件プログラムの著作権がデータウエストに帰属していることは明らかである旨主張する。

そこで検討するに、検甲第七ないし第九号証、乙第二六ないし第二八号証及びデータウエスト代表者本人尋問の結果によれば、データウエストが製作したデバイスドライバを使用してCD-ROMドライブを起動させると、CD-ROMドライブがDWR-22MS(データウエスト向け製品)、ECD-150(エレコム向け製品)、CDR-H93MV(メディアビジョン向け製品)のいずれであっても、その初期画面には、デバイスドライバに関して「PC-9800 CD-ROM Driver Version 1.11a Copyright (C) 1993 by DATAWAST,Inc.ALL rights reserved.」と表示され(乙二六ないし二八の緑色の部分)、エレコム向け製品あるいはメディアビジョン向け製品CD-ROMドライブに添付されたデバイスドライバを使用すると別の表示がされること、初期画面においてはデバイスドライバの次にCD-ROMドライブに関する表示がされる(乙二六ないし二八の水色の部分)こと、データウエスト作成のデバイスドライバは、品名、品番、インクワイアリ・データを読み取って、適合するドライブであることを認識してから動作すること、データウエスト作成のデバイスドライバは三洋電機の品名、品番にも対応して起動することが認められる。

これらの事実からすると、「PC-9800 CD-ROM Driver Version 1.11a Copyright (C) 1993 by DATAWAST,Inc.All rights reserved.」という表示は、起動に使用したデバイスドライバの著作権がデータウエストに帰属していることを表示したものであり、次の「Found CD-ROM Device. SCSI-ID:5 DATAWEST DWR-22MS 1.31」(乙二六)、「Found CD-ROM Device. SCSI-ID:5 SANYO CDR-400E 1.31」(乙二七)「Found CD-ROM Device. SCSI-ID:5 SANYO CDR-400I 1.31(乙二八)という表示でいう「Found」は、デバイスドライバが次に示すCD-ROM装置を「見つけた」ことを表示するものであると解するのが相当である。すなわち、「Found」以降の記載された装置は、データウエストが著作権を有するデバイスドライバがSCSI-ID5番に見つけた装置を表示しているにすぎないのであって、「Found」以降に記載された装置についてデータウエストが著作権を有していることを表示しているのでないのである。仮に、データウエストが主張するように、右の水色の部分がCD-ROMドライブについての著作権を表示しているとすると、データウエストは本件プログラムだけではなくSCSIについても著作権も有していることになってしまうが、SCSIは、パソコンなどの小型コンピュータとハード・ディスク装置等の周辺機器を接続するためのインタフェース規格の一つであるから、データウエストが著作権を有している旨の表示がされることになり、明らかに不合理である。

さらに、甲第一六、第一七号証、検甲第三ないし第五号証によれば、梱包箱や取扱説明書には「Copyright 〈C〉 1993 by DATAWAST.Inc.」と記載されていることが認められるが、右梱包箱内にはCDR-ROMドライブを起動させるためのデバイスドライバのプログラムがフロッピー・ディスクに入れられて添付されていること、このため、CD-ROMドライブ本体内に搭載されているプログラムよりもプログラムとしての存在が意識されやすいこと、フロッピー・ディスクに入れられているプログラムはより違法コピー等の危険にさらされやすいことからすると、梱包箱や取扱説明書に表示されている著作権表示はフロッピー・ディスクに入れられているデバイスドライバのプログラムに関するものと解するのが相当である。

5  以上のとおり、データウエストは、本件プログラムのソースコードを保有していないこと、本件プログラムについて創作的表現を作成するための作業を具体的に行ったと認めることはできないこと、CD-ROMドライブを起動させた時の初期画面の表示や梱包箱、取扱説明書に記載された表示から、本件プログラムの著作権がデータウエストに帰属していることを示しているとはいえないことからすると、データウエストに本件プログラムの著作権が帰属していると認めることはできない。

6  さらに、データウエストは、本件基本契約書(甲一)がデータウエストと三洋電機との間で締結されたものであることを前提とし、その第一一条をもって、本件プログラムの著作権がデータウエストに帰属していることは明らかである旨主張する。

確かに、前記2認定の事実によれば、タイプAドライブの開発に当たっては、データウエストと三洋電機との間で、直接電子メール等のやりとりがなされたり、双方が協議する場が設けられて、情報の交換がなされていたことが認められ、また、データウエストは実質的には三洋電機との間で取引をしていると認識していたことがうかがわれないわけではない。しかしながら、前記認定のとおり、平成五年六月一日に、三洋電機の子会社として三洋マービック・メディアが設立され、光ディスク事業部の機能を引き継ぎ、以後は三洋マービック・メディアがデータウエスト及び大空との商談を担当したものであり、本件基本契約書も大空と三洋マービック・メディアを当事者として作成されたものである。そして、三洋マービック・メディアは三洋電機とは別の法人格を有する株式会社であり、実体も有するのであるから、本件基本契約書が実質的にはデータウエストと三洋電機との間の契約書であるというためには、データウエストの代わりに大空、三洋電機の代わりに三洋マービック・メディアの名をそれぞれ記載しなければならなかったという特段の事情を要するものというべきである。しかるところ、データウエスト代表者は、大空が三洋電機と既に取引があり、取引口座を有していたこと、大空がデータウエストの版権管理的なことをしていたことを挙げるが、これらは、データウエストが契約書に自らの名で調印することを妨げたり、大空の名で契約書を作成しなければならない積極的、合理的な理由とはいえない。むしろ、前記認定のとおり、本件取引は、当初、大空が三洋電機及びデータウエストの双方に働きかけて始まったものであり、また、大空は三洋マービック・メディアに対し、タイプAドライブを発注し、しかも、出荷予定を文書で通知しており、現に大空と三洋マービック・メディアとの間に取引関係があったのであるから、大空と三洋マービック・メディアとの間で契約書が作成されること自体何ら不自然なことではなく、大空はデータウエストのために、三洋マービック・メディアは三洋電機のために、それぞれ名義を貸して契約書を作成したとする方が不自然である。そして、前記2で認定した事実のほか、本件全証拠によっても、データウエストの代わりに大空、三洋電機の代わりに三洋マービック・メディアの名をそれぞれ記載しなければならなかったという特段の事情があったと認めることはできない。

したがって、本件基本契約書がデータウエストと三洋電機との間で締結されたものであることを前提とする、データウエストの主張は採用することができない。

7  以上のとおり、原始的にも、契約によっても、本件プログラムの著作権がデータウエストに帰属していると認めることはできないから、本件プログラムの著作権がデータウエストに帰属していることを根拠にタイプAドライブの製造、販売の差止め等を求めるデータゥエストの請求は理由がない。

そして、右のとおり、本件プログラムの著作権がデータウエストに帰属していると認められない以上、タイプAドライブと同じく本件プログラムを搭載しているとして、タイプBドライブについてもその製造、販売の差止め等を求めるデータウエストの請求も理由がない。

三  争点3(三洋電機は、データウエストに対し不法行為責任を負うか)及び争点4(三洋電機は、データウエストに対し不正競争防止法に基づく責任を負うか)について

1  データウエストは、三洋電機がタイプAドライブに関する著作権、特許権、意匠権、商標権その他一切の知的所有権がデータウエストに帰属していることを認識しながら、エレコムに中身も容器もそのままで売却した行為は、民法七〇九条の不法行為に当たる旨主張する。

三洋電機がタイプAドライブをエレコムに販売した行為がデータウエストに対する不法行為を構成するには、右三洋電機の行為が違法性を有することを要件とするところ、前記二のとおり、そもそもデータウエストはタイプAドライブ(正確にはそこに搭載されている本件プログラム)につき著作権を有していないし、また、本件全証拠によるも特許権、意匠権、商標権その他一切の知的所有権を有しているとは認められない。したがって、三洋電機の右行為が不法行為を構成するとはいえない。

また、データウエストは、右三洋電機の行為が不正競争防止法二条一項三号の「不正競争」に当たる旨主張する。しかし、同法二条一項三号にいう「不正競争」に当たる旨主張する以上、データウエストはCD-ROMドライブの具体的な形態について主張立証すべきところ、本件においてこの点の主張立証がない。しかも、本件においては、三洋電機がエレコムに対し販売したCD-ROMドライブが、(三洋マービック・メディアを通じての取引であったか、三洋電機とデータウエストとの直接の取引であったか否かは争いがあるものの)データウエストに対して販売されたCD-ROMドライブと同型であることにつき、データウエストと三洋電機の間に争いはなく、むしろ、三洋電機がデータウエストに対し同型のCD-ROMドライブを販売しない義務を負っていたか否か(後記争点5)が問題となるところ、後記のとおり、三洋電機は、データウエストに対しそのような義務を負っていたと認めるに足りる証拠はない。

したがって、三洋電機は、不正競争防止法に基づく責任を負うこともない。

2  さらに、データウエストは、三洋電機が、豊田通商株式会社を通じて、メディアビジョンにタイプBドライブを販売したことが不法行為を構成する旨主張する。しかしながら、データウエストの主張は、タイプBドライブはタイプAドライブとその仕様の一部が異なるのみで、搭載されているプログラムは同一の本件プログラムであることを前提にしているところ、先に説示したとおり、本件プログラムの著作権がデータウエストに帰属していると認めることはできないし、また、本件全証拠によるも、タイプBドライブについてデータウエストが著作権、特許権、意匠権、商標権その他の知的所有権を有していると認めることもできない。タイプBドライブに関する不正競争防止法に基づく主張も、前同様理由がない。

よって、データウエストの民法七〇九条又は不正競争防止法に基づく請求はいずれも理由がない。

四  争点5(三洋電機は、データウエストに対し債務不履行責任を負うか)について

データウエストは、三洋電機との間で、開発商品につき、三洋電機は他に販売、譲渡、使用など一切しないという合意を含む契約を締結し、データウエストは大空の名義を、三洋電機は三洋マービック・メディアの名義を使用して本件基本契約書を作成した旨主張する。

しかしながら、前記二のとおり、本件基本契約書が実質的にはデータウエストと三洋電機との間で締結されたものであると認めることはできないし、また、本件全証拠によるも、三洋電機がデータウエストに対し、その製造したタイプAドライブをデータウエスト以外の者に販売、譲渡、使用など一切しない旨の合意をしたと認めることもできない。

よって、債務不履行に基づくデータウエストの請求は理由がない。

五  争点7(大空、大空正二、芝野惠自及びデータウエストは、三洋マービック・メディアに対し金銭の支払義務を負うか)について

1  まず、乙第三〇号証の1~7、第三二号証の1~3、第二事件の甲第一、第三号証及び弁論の全趣旨によれば、大空は、平成五年一一月二日、三洋マービック・メディアと特約店引受の契約を締結し、同日、大空正二、芝野惠自及びデータウエストは、右特約店引受の契約に基づく取引によって大空が三洋マービック・メディアに対し負う債務につき、連帯保証する旨約したこと、三洋マービック・メディアは大空に対し、平成五年一〇月から平成六年三月末までの間、タイプAドライブを八八二三台販売したところ、大空はその代金合計一億七四四八万三六四八円のうち、一億二七九一万一三五〇円を支払ったのみで残金四六五七万二二九八円を支払っていないことが認められる。

2  データウエストらは、争点7【大空、データウエスト、大空正二、芝野惠自の主張】のとおり、主張する。

しかしながら、第二事件の甲第一号証によれば、本件特約店引受書には、三洋マービック・メディア取扱商品の販売特約店を引き受けることが明記され、特約店欄に大空の住所、社名、代表者名が記載され、登録印が押印されていることが認められる。したがって、これが、実質的には三洋電機との契約であったというには、三洋電機の名義では契約書を作成することができなかったとか、あるいは三洋マービック・メディアの名義で契約書を作成しなければならなかった特段の事情が認められなければならないところ、本件全証拠によるも右特段の事情は認められず、特約店引受契約の一方当事者が、三洋電機であると三洋電機側が説明したような事実を認めることもできないし、他に三洋電機との間での契約であることを認めることができる証拠もない。

したがって、本件特約店引受契約が、三洋電機との間の契約であることを前提にした、右データウエストらの主張は採用できない。

2  また、データウエストらは、三洋マービック・メディアは、三洋電機とデータウエストとの紛争が解決するまで右残金四六五七万二二九八円の請求を留保若しくは支払を猶予する旨約したと主張する。

しかしながら、四六五七万二二九八円という高額の債権につき請求を留保若しくは支払を猶予するというのであれば、何らかの書面が作成されるのが通常と思われるところ、そのような書面が作成された事実は全くうかがわれないし、他に右主張事実を認めるに足りる証拠もない。

したがって、データウエストらの右主張も採用することができない。

3  以上のとおりであるから、大空は三洋マービック・メディアに対し、四六五七万二二九八円の支払義務を負い、また、大空正二、芝野惠自及びデータウエストは、右大空の三洋マービック・メディアに対する債務の連帯保証により同額の支払義務を負うものというべきであるから、三洋マービック.メディアの請求は理由がある。

第五  結論

以上のとおりであるから、データウエストの請求は理由がなく、一方、三洋マービック・メディアの請求は理由があるので、主文のとおり判決する。

(平成一〇年六月一六日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 小出啓子)

〔タイプA〕

CD-ROMドライブの表示

1、

1.適用範囲

PC(パーソナルコンピュータ)に接続するCD-ROMドライブ製品名 DWR-22MS に適用とする。

PC適用区分 DWR-22MS(PC)

NEC PC-9800シリーズ用

DWR-22MS(MC)

APPLE MACINTOSH用

DWR-22MS(IB)

IBM PC/AT互換機用

2.基本仕様

(1)主な特徴

8/12cm ディスク対応

トップローディング方式

倍速対応

Mode-1、CD-ROM XA、マルチセッション対応(Photo-CD マルチセッション含む)

CD-DA内蔵

SCSI-2インターフェイス

(2)表示関係

Power-ON:Green LED

Busy:Orange LED

CD-Audio:Orange LED

(3)コントロールノブ関係

イジェクト(Lid-open):上面(PUSH TYPE)

ヘッドホーン音量調節:側面(ROTARY TYPE)

パワースイッチ :側面(SEESAW TYPE)

SCSI ID、ターミネータ:背面(3 DIP、1 DIP)

(4)入出力端子

DC入力端子(ACアダプター)

ヘッドホーン端子(ミニタイプ)

SCSI-2 I/F端子(アンフェノール 50P×2)

(5)電源

ACアダプター

3、特性

(1)ディスク・タイプ

CD-ROM Mode-1/CD-ROM XAディスク

CD-DAディスク

(2)ディスク寸法

80mm、120mm (直径)

(3)回転速度

定速度 約210rpm~540rpm

倍速度 約420rpm~1080rpm

(4)データ容量(12cm)

656MB Mode-1

748MB Mode-2

(5)データ転送速度

定速度 150KB/S

倍速度 300KB/S

(6)バッファーメモリ

256KB

(7)平均アクセスタイム(12cm Disk)

450ms

(8)エラーレート

<10-9(ソフトリードエラー)

<10-12(ハードリードエラー)

(9)インターフェイス

SCSI-2

(10)MTBF

20、000POH (Duty 10%)

(11)外形寸法

140幅×48高×260奥行き(mm)

(12)本体重量

650g(ACアダプターは除く)

4.電気特性

(1)ヘッドホーン出力

10mW (32Ω負荷、10%歪み、1kHz/0dB)

(2)許容入力電圧変動(ACアダプター)

±10%迄 問題無きこと (対 AC 100V)

(3)入力電圧

DC12V

5.信頼性

(1)気象的条件

(イ)温度

動作時:5℃~40℃

非動作時:-15℃~60℃

(ロ)湿度

非動作時:90%(非結露)

(2)機械的条件

(イ)耐振動

動作時:0.2Gまで問題ないこと

(3~60Hzのサイン波で往復2分スイープ)

非動作時:0.4Gまで問題ないこと

(3~60Hzのサイン波で往復2分スイープ)

(ロ)耐衝撃

非動作時:休止時に各辺5cm持ち上げ落下で異常なきこと

(ハ)傾斜

転倒傾斜が10°以上有ること

(ニ)梱包落下試験

2角2稜6面 高さ:面60cm、角稜48cmにて問題なきこと

(3)耐ノイズ性能

(イ)不要幅射

国内電波規格(VCCI)の2種を満足すること

(ロ)静電破壊試験

誤動作:5kV、破壊:15kv

(C=250pF、R=100Ω)

*LID:閉じた状態/端子類は除く

(ハ)電源ノイズ試験

500Vで誤動作しないこと

(パルス巾:800、400、100msec)

6.ブロック図

〈省略〉

〈省略〉

7.本体寸法図

〈省略〉

本体寸法図

〈省略〉

it File Name:M:\DW8365.BIN Dnfa Wesf 外type

it File Size:24447 Bytes

Range:OH to 5F7DH

Bytes:24446 Bytes

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〔タイプB〕

CD-ROMドライブの表示

第1、

1.ハーフハイト内蔵型、倍速 CD-ROMドライブ:

製品名(仮称):CDR-H93×××

2.基本仕様

(1)主な特徴

トラバースメカニズム一体のフロントローディング方式

(埃等のメンテナンスが容易)

データ転送速度:2倍速

平均アクセス時間:350ms

対応 Discタイプ:※ CD-ROM XA (モード -1、モード -2/ フォーム-1/ フォーム-2)

※ マルチセッション対応 (Photo-CD)

※ 音楽用Disc(8/12cm)

インターフェース:SCSI-2

(2)本体 表示

BusY (オレンジ色 LED)

(3)エジェクト方式

本体 エジェクトボタン及びソフトエジェクトの2方法

(4)入/出力端子(背面)

電源端子(+5+12V:4Pタイプ)

SCSI-2端子×1(アンフェノールフルピッチ50ピンタイプ)

オーディオ出力端子:3ピンタイプ(L、G、R)

*特記)終端抵抗は内蔵(ONにて固定)

3.基本性能

(1)対応ディスク

CD-ROMモードー1/モードー2(フォーム-1、-2)

*マルチセッションPhoto-CD

音楽用ディスク(8cm/12cm)

(2)ディスクサイズ

80mm、120mm(直径)

(3)ディスク回転速度(線速度1定CLV)

定速時:約210~540回転/分

倍速時:約420~1080回転/分

(4)ディスクデータ容量

540MB(12cm)モード1、モード2/フォーム1

180MB(8cm)

(5)データ転送レート

定速時;150KB/S 倍速時;300KB/S

(6)バースト転送レート

最大 1.5MB/S

(7)バッファ容量

256KB

(8)平均アクセス時間

350ms

(9)エラーレート

<10-9(ECCオフ)、<10-12(ECCオン)

(10)インターフェース

SCSI-2(8ビット バス)

(11)MTBF(信頼性)

30,000 POH (Duty 10%)

(12)寸法(mm)

146(W)×41.5(H)×210.25(D)(シャーシ)

(13)本体重量

約970g

(14)電源

+5V DC、0.3A

+12V DC、1.6A(ピーク時)

4.オーディオ特性

(1)サンプリング周波数

44.1kHz

(2)量子化ビット数

16ビット リニア

(3)周波数特性

20Hz~20kHz

(4)ダイナミックレンジ

75dB

(5)出力

0.7V(出力インピーダンス2.2kΩ時)

5.信頼性条件

(1)温度

動作時:5℃~40℃

保管時:-15℃~60℃

(2)湿度

保管時:90%Rh(非結露時)

(3)耐振動

動作時:0.2G

保管時:0.4G

*6~60Hzのサイン波で往復2分スイープ条件

(4)耐衝撃(落下試験)

本体:休止時に各辺5cmの持ち上げ落下で異常無き事

梱包時:2角2稜6面 面60cm、角稜48cmの高さにて問題無き事

(5)本体据え置き方法

水平位置のみ

(6)静電破壊

5kV迄 誤動作ない事

15kV迄 破壊無い事

条件) トレイは閉じた状態

端子類は除く

6.安全規格:

UL、FCC、DHHS

第2、

1.同梱アクセサリー:取扱説明書

2.梱包関係

寸法 個装箱:235×105×296(WHD)

外装箱:489×347×619(WHD)

セット入り数:12台/外装箱

外装箱総重量:約19kg

3.SCSI-2 コマンド:

インターフェース仕様は、弊社の“SCSI-2コマンド技術仕様書”に基ずくものとする。

外観図

〈省略〉

新聞及び雑誌目録

一、新聞

朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、日本経済新聞、日刊工業新聞の各全国版

二、雑誌類

OH!PC (ソフトバンク株式会社発行) 月二回刊

東京都中央区日本橋浜町三-四二-三 ソフトバンクスクエア

ASCII (株式会社アスキー発行) 月刊

LOGiN (株式会社アスキー発行) 月二回刊

東京都渋谷区代々木四-三三-一〇 トーシンビル

MACLIFE (株式会社ビー・エヌ・エヌ発行) 月刊

東京都千代田区麹町二-六-五 麹町ECKビル

マイコンBASICマガジン (株式会社電波新聞社発行) 月刊

大阪市北区中之島三-二-四

日経パソコン (株式会社日経BP発行) 月二回刊

日経ビジネス (株式会社日経BP発行) 週刊

東京都千代田区平河町二-一-一

謝罪広告

今般当社に於いて製造しておりましたCD-ROMドライブユニット(当社品番CDR-H93)は、国内に於いてはエレコム株式会社宛販売し、同社から商品名Fixe11-PORTCDとして一般に販売され、又海外に於いては米国メディアビジョン社宛販売し、同社から商品名「CDR-H93MV」として一般に販売されておりましたが、同製品は元来データウエスト株式会社(本社・大阪市鶴見区放出東三丁目八番二八号)が、その一切の著作権・意匠権を有しているものであり、今回の当社の行為は右権利を侵害し、データウエスト株式会社の信用を大きく毀損するものであり、同社に多大なる迷惑をおかけしたことを認め、ここに謹んでデータウエスト株式会社に対し謝罪し、今後二度とかような不法行為を繰り返さないことを固く誓約致します。

平成 年 月 日

大阪府守口市京阪本通二丁目五番五号

三洋電機株式会社

右代表者代表取締役 高野泰明

データウエスト株式会社殿

掲載条件

一、大きさ

(一)新聞については

大きさ 天地二段、左右一〇センチメートル

掲載場所 社会面広告欄

使用する活字 見出し、宛名及び被告の氏名は五号活字

その他は六号活字

(二)雑誌類については

大きさ 一頁

掲載場所 表三(裏表紙の裏面)

使用する活字 見出し、宛名及び被告の氏名は二〇ポイント文字

その他は一四ポイント文字

二、掲載回数

(一)新聞については

各紙朝刊に一回掲載すること。

(二)雑誌類については

それぞれについて一回掲載すること。

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